世界から思想が消えた。
愚劣な人間に愛想を尽かして思想は全て失踪してしまったのだ。
おかげで、社会から思想という思想が消えた。民主主義も消えた。法律の機能しなくなった、法治国家という思想そのものが消えたからだ。それどころは、国家すら消えた。誰も国家を信じなくなったからだ。
そういう中で、暴力だけで成り上がった帝王がいた。
戴冠式の日に暴力王は宣言した。
「暴力だけがこの世を支配する唯一のルールである。それは現実であり私の信念だ。思想と言ってもいい」
その瞬間、暴力による絶対支配は思想に昇華され、やはりこの思想も失踪した。
できたばかりの王朝はあっさり崩壊した。
(遠野秋彦・作 ©2013 TOHNO, Akihiko)